2003年からシンガポールで開催されているチャリティーイベント「Hair for HOPE」。非営利団体CCF(children's Cancer Foundation)が毎年、小児ガンの治療中の子どもやその家族を支援するために開催しています。シンガポールのQBHOUSEは2015年からオフィシャルスポンサーとなり、ヘアカットというスキルでこの活動を支援しています。
治療中に髪が抜けてしまう子どもたちと同じ環境に立つために、参加者が髪を坊主にし、そのカット代を募金するという取り組みです。2023年7月にシンガポールの商業施設で開催されたイベントには、1717人が参加しました。
日本からは、QBHOUSEの代表の1人として、広島ロジスカットスクールのトレーナー亀本和樹さんが参加しました。どのような思いを持ってHair for HOPEに参加したのかをお聞きしました。
「坊主になった後の笑顔に、心が揺さぶられた」
ロジスカット広島 トレーナー 亀本和樹さん
「一つの目標に向かって進めば、言葉の壁を越えて絆が生まれる。そんな体験をしました」。そう話すのは亀本和樹さん。現在、広島のロジスカットでトレーナーとして活躍しています。
入社2年目で副店長、4年目には店長に就任。美容師になる前は、保育士として働いていた経験もあります。
「前職では『子どもを育てる』ことに悩み、結果を出せないまま退職したんです。もう一度人を育てるチャンスがあるんだったらリベンジしたいと思い、QBHOUSEではトレーナーを目指そうと思いました」
Hair for HOPEを知ったのは社内広報誌がきっかけ。周囲にがんで苦しんでいる人がおり、他人事とは思えないと感じたのだそう。保育士になる前には、小児医療の現場に立ちたいと看護学校に通っていた時期もあった亀本さん。Hair for HOPEは、亀本さんのこれまでの歩みとリンクするチャリティーイベントでした。
「現地に渡った初日に、シンガポールのメンバーから支援の詳しい内容を聞かせてもらいました。治療費の支援だけでなく、入院で遅れてしまった学習面のフォローや家族兄弟の心のケアなど、多角的な支援をしていることを聞いて関心しきりでした」
チャリティーイベントは、Vivo Cityという商業施設の広場にある特設ステージで開催されました。募金をした人が公式のTシャツを着て壇上に上がり、QBHOUSEのスタッフの手によって参加者がどんどん坊主になっていきます。
「日本で言うと、24時間テレビみたいな雰囲気に近いかもしれません。壇上には司会者がいて、剃髪の途中で参加者にインタビューをして盛り上げていました。毎年このイベントに参加しているというコスプレイヤーの集団もいましたね。みんなが楽しんで参加している雰囲気がありました」
亀本さんも2日間で、40人ほどの方を坊主にしました。印象的だったのは、お子さんも自分の意思で積極的に参加しているということ。
「ヘアドネーション(髪を寄付)をしたいと、髪を1mぐらい伸ばした女の子がやってきました。この時のためにずっと髪を伸ばしてたそうなんですよ。女の子だし、本当に坊主にしていいのかと戸惑いましたが、終わったら、キラキラした笑顔で笑ってくれました。壇上から降りた後に、家族が彼女を迎えに来て、坊主になった頭を愛おしそうに撫でているのを見たとき、なんだか泣きそうになりました」
カットが終わると、握手をしたり抱き合ったりして、お互いが称え合います。それは「切ってくれてありがとう」「来てくれてありがとう」といった気持ちが、言葉がなくても伝わる瞬間です。
チャリティー会場でカットする時間、QBHOUSEの技術に対しても感じることがありました。
「シンガポールには美容師免許がないので、クオリティがピンキリなんだそうです。でもQBHOUSEでは誰がカットしても同じクオリティを担保できます。参加者とコミュニケーションを取るうちに、そんな信頼感を持ってくれてるんだと感じることができました」
十数年ぶりの海外、言葉の壁。初めは緊張や不安も大きかったといいます。しかし、参加者とカットを通じてコミュニケーションを交わすうちに、どんどん「楽しい」「来て良かった」という想いが増していきました。そして、一緒にチャリティーに参加したシンガポール・台湾・香港のメンバーと言葉を超えて熱いコミュニケーションを交わしたことが、最も忘れられない体験となりました。
「イベントの最後に、スタッフ全員で円陣を組んで一言ずつ話す場面があったんですが、僕は感情が込み上げて抑えきれなくて…涙してしまったんです。でもそれをみた海外のスタッフが、言葉は伝わっていないのに一緒になって泣いてくれて。みんなが微笑みながら泣いていました。さまざまな国の方が参加されるイベントの中で、一つの目標に向かって一緒に進む団結力や絆が生まれました」
イベントに参加する前、亀本さんは淡々と日々の生活を過ごしている自分に「心が鈍感になっている」と感じていたのだそう。
「こんなにも自然に涙が出るほど、自分の心が揺さぶられたことに驚きました。言葉が通じなくても心が共鳴する経験は、Hair for HOPEでないとできないなかったんじゃないかな。ちょっとしんどいときもこの体験を思い出すと勇気が出て、僕の心のビタミン剤になっています」
鈍感になっていた心が「誰かのために」と行動する人の想いに触れて、動き出す。Hair for HOPEで感じた人との絆や相手を想う気持ちを持って、ロジスで人を育てていきたいと話してくれた亀本さん。今後の活躍が楽しみでなりません。
(こちらの動画も是非ご覧ください。)
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